2026/09/15(火)2・3・4限
★ASの設計に関して¶
1. 設計方式¶
今回、AS(台車)の設計にあたり、構造最適化手法の一つである「トポロジー最適化(Topology Optimization)」を利用した。要求される強度や剛性などの性能を維持しながら不要な材料を削減し、部品の軽量化や材料使用量の低減を図るためである。
2. トポロジー(位相幾何学)とは?¶
体積や曲率といった詳細な情報をある程度無視してでも、本質的な情報を取り出そうとする、幾何学の一分野である。
- 考え方の例
粘土でできたドーナツ(穴が1つ)を、切ったりくっつけたりせずに形を変えると取っ手付きのマグカップ(穴が1つ)になる。トポロジーの世界では、これら2つを「同じ形」とみなす。
- ポイント
対象の形が変形しても同値であると見なすことで、「空間に穴が空いている」といった形状の特徴を捉えようという発想に基づくものである。
3. 基本となる概念¶
トポロジー(位相幾何学)において、異なる空間や形状の性質を調べる際に重要となる概念を幾つか紹介する。
- 位相空間
点や集まりの「近さ」を定義するための枠組みである。これは、距離だけでなく、開いた集まりや閉じた集まりなどを通して空間の性質を理解する方法といえる。位相空間を使うと、空間内での点の近さや収束をより柔軟に扱うことができる。
- 同相写像
2つの位相空間において、双方向に連続でかつ逆写像も連続な写像である。これにより、空間の位相的な性質が保存される。
- ホモトピー同値
2つの位相空間が、互いに連続写像によって対応し、さらにそれらの合成が恒等写像と連続的に変形可能である関係をいう。同相写像よりも緩い同値関係であり、空間そのものの形状ではなく、連結性や穴などの大まかな位相的構造に着目する。
- 連結性
位相空間において点と点をつなぐ性質を指す。位相空間が連結であるとは、空間を互いに交わらない2つの空でない開集合に分離できないことをいう。空間の結びつきや一体感を表現し、数学的な性質を研究する上で重要な概念となる。
- コンパクト性
空間内の任意の開被覆から有限個の部分被覆を選べる性質である。有限な空間での収束や連結性に関連している。
- ホモロジー
位相空間の「穴の数」を数学的に表現する手法である。これは空間の形状に関する情報を与え、位相的な変化を捉えるものといえる。
4. 分科¶
トポロジー(位相幾何学)には様々な分科が存在する。
- 位相空間論 (General topology)
位相の基礎となる側面を確立し、位相空間の性質を研究し、位相空間特有の概念について研究する。別の言い方をすると、「与えられた集合を位相空間とするような開集合に関して研究する」分野である。これには他のあらゆる分野で用いられる基本的な位相的概念(コンパクト性や連結性などの話題を含む)を扱う点集合位相 (point-set topology) も含まれる。
- 代数的位相幾何学 (algebraic topology)
ホモロジー群やホモトピー群などの代数的構成を用いて連結性の度合いを測ることを試みる。
- 微分位相幾何学 (differential topology)
可微分多様体上の可微分写像を扱う分野である。微分幾何学とも近しい関係にあり、これらを合わせて可微分多様体の幾何学的理論が構築される。
- 幾何学的位相幾何学 (geometric topology)
主として多様体およびそれらの別の多様体への埋め込みについて研究する。特に活発なのが、四次元(以下)の多様体について調べる低次元位相幾何学であり、これには結び目について研究する結び目理論も含まれる。
5. トポロジー(位相幾何学)の応用¶
トポロジー(位相幾何学)は、形状最適化、データ解析、ネットワーク解析、生物学、材料科学、機械学習など幅広い分野で活用されている。データの形状や特徴の抽出、ネットワークや分子構造の解析、新材料の設計、機械学習におけるデータ解析など、複雑な関係性や構造を理解するための重要な数学的ツールとなっている。
6. トポロジー最適化 (topology optimization)とは?¶
上記でも示されたような「トポロジー(位相幾何学)」の概念を応用することにより、設計空間内で材料を「どこに残し、どこを削るか」を数理的に決定し、軽量化や剛性最大化を実現させようとする構造最適化手法である。設計者があらかじめ形状を想定する必要がなく、穴の数や部材のつながり方(位相)そのものが計算の中で変化するため、人間の発想では到達しにくい有機的な形状が得られる。この手法で特に重要なのは、「最適な形を直接探す」のではなく、「材料をどこに配置するのが合理的か」を探しているという点である。なお、工学分野でいうトポロジー最適化は、数学における位相幾何学の概念をそのまま適用したものではない。構造最適化において材料配置や構造の連結状態を変更することから、この名称が用いられていると考えると理解する方が適切である。
7. 基本的な考え方¶
トポロジー最適化における基本的な考え方の一例をここに挙げる。
- 設計領域を決定する
・部品を配置できる範囲を設定
- 荷重・拘束条件を設定する
・どこを固定するか
・どこに力が加わるか
- 目的関数を設定する
・例:重量を最小化
・例:剛性を最大化
- 制約条件を設定する
・使用する材料量
・最大応力
・最大変位
・3Dプリンタや切削加工などの製造条件
- 計算を繰り返す
・有限要素法(FEM)などで解析しながら材料の配置を更新
- 最適形状を得る
・荷重を効率よく伝える部分が残り、不要な部分が除去される
イメージとしては、
「材料の塊」→「荷重を効率よく伝達する部分を残した有機的な形状」
という変化になる。
このように、トポロジー最適化では、従来の設計者が経験や直感によって決定していた材料配置を、数値解析によって探索することができる。
8. 代表的な手法¶
トポロジー最適化における代表的な手法の幾つかを以下に挙げる。
- SIMP法: Solid Isotropic Material with Penalization
概要: 業界で最も広く使われている標準的な手法。
仕組み: 解析領域を細かく分割し、各要素の材料密度を0(空洞)〜1(材料あり)の連続値として設定。中間的な密度(0.5など)にペナルティをかけて排除し、明確な0か1の形状へ収束させる。
特徴: 計算コストが比較的低く、商業用CAEソフトのほとんどに搭載されている。
- レベルセット法 (Level Set Method)
概要: 構造の「境界(外形線)」を滑らかな関数として表現する手法。
仕組み: 境界の移動を追跡することで形状を最適化する。
特徴: SIMP法のような曖昧な中間密度が発生せず、滑らかでクリアな境界線が得られるため、CADへの落とし込みや製造(3Dプリンター等)に適している。
- 均質化法 (Homogenization Method)
概要: トポロジー最適化の歴史的ベースとなった手法。
仕組み: 材料内部に微視的な構造(ミクロな穴)を多数配置し、そのサイズや向きを変化させて構造全体の剛性を最適化する。
特徴: 理論的に優れているが、計算が複雑なため実務ではSIMP法などに置き換わることが多い。
- 進化論的構造最適化法 (ESO法 / BESO法: Evolutionary Structural Optimization)
概要: 不要な部分を段階的に削っていく直感的な手法。
仕組み: 応力が低い(負担の少ない)要素を順番に削除(ESO)、または削除と再追加を繰り返して(BESO)最適形状を探す。
特徴: アルゴリズムがシンプルで理解しやすいのが利点である。
9. 設計制約と製造性の考慮¶
トポロジー最適化は自由度が高い反面、製造制約を適切に入力しなければ、実現不可能な形状に陥る。典型的には最小部材径、空隙の最小半径、対称条件、方向性(引抜・型抜き)、積層造形のビルド方向やサポート低減などである。熱や強度の局所集中を避けるため、応力制約や等価ひずみ、熱応力を考慮する。実際の設計では設計空間(設計領域と非設計領域)を明確化し、穴あけ・締結・取付面などの機能面をあらかじめ固定する。
しかしながら、計算結果をそのまま図面化できることは稀で、実際には設計者による再解釈が必ず入る。鋳造で作るなら抜き勾配と最小肉厚、切削なら工具のアクセス性、板金なら曲げ展開の可否といった製造制約を最適化条件に含めるか、結果を見ながら手作業で修正する必要がある。
最適化形状を忠実になぞるより、リブの配置や荷重伝達経路といった「材料を置くべき場所の思想」を読み取り、従来工法で作れる形へ翻訳する使い方が費用対効果に優れると言える。滑らかな曲面を多用した形状は寸法公差や幾何公差の指示、検査基準の設定も難しくなるため、詳細設計へ引き継ぐ前に測定方法まで見通しておきたい。コスト面では、金属AMの造形費が切削品の数倍から10倍程度になる場合もあり、軽量化1kgあたりの価値が高い航空宇宙やレース車両では採算が合う反面、汎用産業機械では従来工法向けの形状翻訳が現実的な落としどころになる。
また、構造最適化はあくまで指定した荷重ケースに対する最適解であり、想定外の荷重方向や衝撃に対しては脆弱な形状になり得る。
10. 今回採用した方式¶
今回のAS(台車)の設計では、Autodesk社の3DCADソフトウェアであるFusionに標準搭載されている「Generative Design」機能を用いた。設計領域、荷重条件、拘束条件、材料条件および製造方法等を設定し、生成された複数の設計候補のうち、要求性能および製造性を考慮して形状を選定した。本検討では、コンプライアンスを評価指標とした計算を累計31回実施した。その後、得られた生成形状をそのまま製品形状として採用するのではなく、同じくFusionから「Design」機能を用いて、取付部や加工性等を考慮しながら手作業による形状修正を行い、最終形状を決定した。
なお、Fusionの「Generative Design」において内部的に使用されている具体的な最適化アルゴリズムについては、本検討で確認できる設定項目および公開情報のみから特定することが困難であった。そのため、本設計では特定のアルゴリズム(SIMP法、レベルセット法等)が使用されたと断定することは避け「Fusion Generative Designを用いた構造最適化」として扱うこととした。
以上の方法により、従来の設計者による形状検討だけでは得ることが難しい材料配置を探索し、その結果を設計者が実際の製造条件や部品としての機能を考慮して再解釈することで、ASの最終形状を決定した。
11. 使用する素材の検討¶
当初の計画は、摺動部品および筐体を含む締結部品以外の全ての部品を、積層式3Dプリンタを用いてPLA樹脂で造形する造形し、また、摺動部品については、シリコンスプレーを塗布して表面にシリコーン被膜を形成することにより摩擦抵抗に関する問題の解決を図り、用いるというものであった。
しかし、いざ実際に試作を行い、造形の具合を確認してみると、締結部や歯車部品等の緻密さが求められる部品に関してはそれら要求に応えられるようなものではないものが出来上がってしまった。
そこで今回は、CNC加工機を利用したアルミニウム合金による造形も視野に入れ、研究を進めていきたいと思う。アルミニウム合金はPLA等の合成樹脂材料と比較して高い剛性および強度を有し、切削加工によって高い寸法精度を得ることができるため、締結部や歯車部品などの製作に適していると考えられるためである。
12. 最適なアルミニウム合金の選定¶
アルミニウム合金は、主要な合金元素に基づいてシリーズに分類される。
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2xxxシリーズ(銅合金):高強度で耐疲労性に優れ、航空宇宙部品によく用いられる。
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5xxxシリーズ(マグネシウム合金):優れた耐食性を持ち、船舶部品や構造部品に使用される。
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6xxxシリーズ(Mg-Si合金):バランスの取れた強度と優れた被削性を持つ。
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7xxxシリーズ(亜鉛合金):最高の強度。7075アルミニウムは高負荷用途に広く使用されている。
今回は、要求される強度設計やコスト面から、6xxxシリーズの採用を検討したい。
13. 次回やること¶
- 最適なアルミニウム合金の選定
- 製造条件や部品としての機能を考慮し、再設計を行う